本コーナーは、本来システムを問わずに基本を綴るところなのですが、さすがにリスクベースモニタリングとEDCの関係性ともなるとあまり抽象的な話では意味が無いので、OmniComm Systems, IncのTrialMasterの機能をベースにいくつか具体例を挙げていきたいと思います。リスクベースモニタリング自体、まだまだ発展途上ですので、アプローチも、機能面において(実際に何が可能か)も、EDCシステムによって大きく異なります。従いまして、飽くまで「おお、今ならコンピューター使ってここまでできるのか!」と参考程度に受け止めて頂ければ幸いです。
動的モニタリング
リスクベースモニタリングには、何らかの形で選択的SDVが盛り込まれます。重要な項目は必ずSDVを行う、あるいはKRI(前回参照)の数値から「高リスク」と考えられる施設のみSDVを行う、全ての施設の最初の被験者は例外なく100%SDVを行う、等々パターンは様々です。SDVをどこまで行うか、というのは被験者・施設別に、「なし」から「100%」まで任意にEDCで制御できます。一般的には、予めSDVレベルをフォーム別で設定した「プラン」をいくつか作成し、そのプランを各被験者・施設にランダム(または手動で)で割り当てます。

赤=要SDV;緑=SDV不要
上図の様に、予め各被験者のSDVレベルを設定することも可能ですし、特定の結果に応じて要SDV項目を変動させることも可能です。動的SDV、動的モニタリング等と呼ばれる手法です。例えば、患者の既往歴に応じて特定の臨床検査値を必ずSDVする、SUSARが認められたら特定のフォームをSDVする等を設定することができます(エディットチェックと連動させてSDVレベルを変動させる…ということです)。
施設の成績から判断
入力項目に応じて要SDV項目を自動的に切り替える以外に、リスクベースモニタリングには、SDVをもっとも必要としている施設を様々な要因から「予測」する、という側面があります。ビジット対応からデータ入力までに要した時間。クエリ発行から適切に対処がされるまでの時間。オートクエリの発生率。これらの数値が参加施設平均と比較して突出して高い・低い場合には、何か問題が起きているのかも知れません。トレーニングが不足しているのか、人手不足なのか、またはモチベーション不足なのか…数値だけでは理由の類推まで行うことは難しいですが、何らかの連絡を取ることは望ましいでしょう。こういった数値をグラフ化して、モニタリング担当がログイン時に一目で確認出来ると便利です。前項のSDVレベルの自動切り替えと異なり、基本的にはモニターの判断が間に入るというのがポイントです。

複数の要因を加味しないと、間違った結論を導いてしまい、モニターの仕事が増えるだけという始末…
リモートSDV
リスクベースモニタリングを考える際に、必ずと言って良いほど併せて検討されるのがリモートSDVです。基本的には、原資料のスキャンをEDCにアップロードし、モニターが施設を訪問ぜずとも書類の存在を確認したり、原資料との照合を可能にしたりします。当然、被験者を特定できる情報をマスキングする必要があり、スキャン前に施設側でマスキングをする必要が出てきます。様式別に、マスキング箇所を指定しEDCに設定することで、アップロード時に自動的に黒塗りが行われます。

スキャンした資料を、アップロード時に自動マスキング。試験のデータベースにはマスキングされた原資料の写しのみが保存されます。
どこまでできるかはEDCシステムに大きく依存
選択的・動的SDV、KRIをEDCのホーム画面に表示、中央モニタリング・リモートSDVの実施等々は、施設訪問を節減することや、モニタリングの全般的な効率化につながります。ですが、手法としては比較的新しく、FDAがガイダンスを発行したのも、ほんの数年前のことです。そのため、コンセンサスもなければ、EDC間である程度の機能の統一化も行われておらず、できる・できないがかなりあります。また、当然ながら機能があるということは、それだけセットアップに時間を割かなければいけない、ということにもなります。当然これは、リスクベースモニタリングのみならず、多機能EDCとシンプルなEDCで試験のセットアップ時間が大きく違うのと同じことだと考えられます。
コメント
そもそもリスクベースドを考える際、試験リスクをどう捉えるかが大事なのではないでしょうか。
試験に携わる私たちの頭を切り替える必要があると思いますが、現場はまだまだちまちまやっている感じです。
これからですね〜。
はるなつままさん、コメントありがとうございます。仰る通りリスクの捉え方は大事ですね。AEの報告漏れ、被験者の追跡不能、データの入力ミス、同じリスクでもインパクトは大きく変わってくるかと思います。欧米のRBM成功例がそのまま日本にも当てはまるわけでもないですしね…