大学卒業後初めてプロマネとして関わった企業試験は、喘息の新薬の研究でした。責任医師と研究の立ち上げ段階から必要なものをチェックしていて、そのなかにメサコリンネブライザーというものがあった。責任医師が別の施設で使用経験のある型を希望していて、取り寄せのために色々とやり取りをしているとき、業者から一本の電話がかかってきた。「え?CEが取れていない?ダメじゃん!」と責任医師。「何だろう、CE…って玩具に付いているあのシールのことではあるまいな…」と思ったのを覚えています。今更聞けないな~と躊躇しつつも思い切って聞いてみたら甲高い笑い声の後に「同じよ、同じ!」と。
同じライフサイエンス業界なのに意外に気付きにくいのですが、医療機器の規制は日米EU三極で全く調和が取れていません。オランダ含め、欧州連合(EU)では医療機器はCEマーキング(≒認可)を取得することによって、EU全域、人口4億の巨大市場での販売許可が認められます。このマーキングの取得には、品目別に定められた必須要求事項を満たしている必要があります。興味深いのは、これらの事項を満たしているか否かの判断は、申請者本人の責任で行われる、と言うことです。高リスクなものに関しては、第三者機関による必須要求事項の調査が必要になってきますが、それでも最終的な責任は申請者本人にあります。大事なポイントなので言い方を変えてもう一度:EU全域の販売許可の可否判断に、行政は基本的には関わりません。そしてCEマーキングを取得したら、EU各国が個々の判断で追加の調査を要求することは出来ません。
また、中・高リスクなものに全て臨床試験データが必要というわけでもありません。既存のデータから安全性が合理的に示されると判断される場合もあります。販売許可を取るのが日米に比較して「楽」と言ってしまったら語弊がありますが、少なくとも人口4億の市場が拓ける割にはコストが低くて済む…と言うのは事実です。また、自国の規制をしっかり持てていない国々では、「日加濠米EUのいずれかで販売許可のあるものはうちでも売って良いよ」としているところもあるため、潜在的な市場は更に大きいです。結果、米国の医療機器メーカーでも、開発費を早めに回収するため、欧州での申請を先行させるそうです。尚、米国は、市場がEUほど大きくないですが、EUより医療機器の価格を高めに設定できる傾向があるため、開発コストを吸収する体力が医療機器メーカー側にあれば、魅力的な市場なのは間違いないでしょう。人口が米国の三分の一の日本は…
と、聞きかじりですのでご参考までに…海外研修で度々さらっと触れられることがありますが、がっつりと話を聞いたことは無いので、機会があれば、欧州の医療機器メーカーに一度インタビューでもしたいですね。ちなみに、CE」はフランス語の「Conformité Européenne」の略で、「欧州基準適合」の様なニュアンスです。
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