いーぷろってなに?

今更聞けないePRO

一部の臨床試験では、患者が直接データを記入する、患者日誌というものが使われます。試験参加中、来院時に色々とデータ収集をするのはもちろんですが、被験者・患者の普段の生活の中での情報も収集しようとするもの。用途は単なる服薬の確認から症状の確認、QOL調査など多岐にわたります。言ってみれば、患者専用の分冊症例報告書。そして、患者日誌を電子化したものがElectronic Patient-Reported Outcome(ePRO)です。いや、患者日誌を電子化したのがePROの発端、とでも言うべきでしょうか…紙の患者日誌では出来なかったことも、ePROでは可能になっています。が、これについてはまた別の機会に…

駐車場症候群

患者日誌というものは、実際に被験者・患者に手渡され、色々な情報を記入してもらって次回来院時に試験スタッフが回収します。毎日記入するものとなると、それなりに大変です。出かけるときに自宅においてきてしまうことや、うっかりと記入を忘れてしまったり、あるいは次第に面倒くさくなって記入しなくなるなど、落とし穴は多い。次回通院時に回収されるのだが、虫食いの状態で試験スタッフに渡すわけにはいかない…ということで通院直前にそれまでの記憶をたぐって、あるいは思い出せない場合は適当に、日誌を書いてしまいます。これを、「Parking Lot Syndrome」(駐車場症候群)と言います*。現象のネーミング自体はウィットに富んでいますが、原データそのものの信頼性に関わる大真面目な問題です。

*日本文化においては夏休みの宿題症候群の方がわかりやすいかも知れません

患者日誌の代わりとして

ePROは、実装方法が様々ですが、まずはイメージを持ってもらうために、紙媒体の患者日誌をそのままEDCで置き換えた場合を考えてみたいと思います(アクセス権限どうするの?という話はいったん措きます)。二週間後の来院までに、毎日の症状を入力してもらうとします。この場合、もちろん上述の駐車場症候群は同じように起こりえるのですが…紙媒体とは決定的な差があります:いつ入力したかは、監査証跡から筒抜けです。事前に、「入力日時は間違いなくわかっちゃうので、タイムリーな入力お願いします」と言う説明は当然必要ですし、これだけで駐車場症候群を完全に排除できるわけでは無いのですが、少なくとも「タイムリーに入力したケースとそうでないケースとを判別」出来るようにはなります。タイムリー層とそうでない層で結果に隔たりが出るかの検証も可能になるかも知れません。

一般的にはマイナーな点と扱われると思いますが、個人的には、紙媒体に手書きということからくる情報量を排除する(筆跡を排除する)、というのも電子化のメリットだと考えています。個人情報保護を論じる際には一般的に性悪説に立つのが基本なのに、患者・被験者の筆跡については性善説に極振りしている現状は、正直モヤモヤします。

バリバリのePROの場合

当ブログの投稿の唯一と言って良いほどの共通のテーマなので、そろそろしつこいかも知れませんが、監査証跡は偉大です。それだけでも、紙の日誌と比較してePROに軍配があがります。前項の様な、患者日誌を丸々電子化するというのはまだ初歩の初歩で、実際には電子化ならでは色々なことができます。例えば、駐車場症候群対策として、当日のみ入力可能とする。入力忘れ防止策として、アラートが端末に飛ぶようにする。そこから発展させていくと、今度は単に結果の入力のみならず、検査そのものをやってもらうとか、有害事象の報告をやってもらうなど、可能性は(患者・被験者の協力さえ得られれば!)無限大です。いままで紙の日誌では実現不可能なことが、ePROだと出来ちゃうのも大きな魅力だと考えています。

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