欧州の薬事規制が変わる…まだだけど

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CCMO(オランダ中央倫理委員会)の2015年度報告書を読んでみました。指令が規則にレベルアップし、内容的にも欧州の薬事規制が2016年に変わるっ!…と言われてから時は過ぎ、しばらくノーマークでいましたら施行が2018年10月まで先送りされていました。しかし、審査のプロセスのみならず、治験のマイルストーン(「節目」のことです、はい)を報告するなど、製薬企業内でいままでのやり方をひっくり返して練り直してと大変そうでしたので、むしろ2016年が無茶だったのかも知れません。なので、期待していた「EU規則化でCCMOがどう変わる」かについては、報告書に残念ながらあまり書かれておらず、まとめっぽいもののみでした。というわけでその紹介を…

科学と倫理を別に審査?

治験の審査が科学的妥当性(パート1)と実施可能性(パート2)とに分割して行われるようになります。実際にはこれほどはっきりと区切りがつけられるものではなく、どちらかと言うと、参加国全てに等しく該当するものをパート1で審査、各国の事情が絡んでくるものをパート2で審査、というべきでしょうか。なのでパート1ではプロトコルや治験薬の詳細情報が、パート2ではインフォームドコンセントや治験協力費、検体の保存や実施可能性の審査が行われます。なお、パート1では科学的妥当性、パート2では倫理性を審査すると紹介される場合がありますが、正確にはパート1と2を通して倫理面が審査されます(条文見ても、パート2で倫理を…という記述は無いです)。パート1に関しては、参加国の一つが「報告者」(Reporting Member State;RMS)の役割を担い、全ての参加国の意見のとりまとめを行うそうです。パート2に関しては、もちろん各参加国での審査になります。

参加国が一つしか無い場合は…

科学的妥当性が一箇所で審査され、通れば申請を出した全ての国で基本的には治験実施がOKとなります。これは、以前の「各参加国で個別に全部審査」と比較すると効率が良いというのはなんとなくわかる。オランダだけで実施されるような試験の場合は、実質的にはほぼ従来通り。パート1と2に分かれていて、この中でCCMOが担う役割は、万が一承認が下りなかったときの不服申し立て先だそうです。うん?と思って条文読み直してみたのですが、「不服申し立て先」は各参加国で設けなければいけないとだけ書いています。ベルギー筆頭に、中央倫理委員会の無い欧州の国もあるので、ここはハーモナイズが難しそうですね。なお、申請資料の言語に関する要件は、(条文の上でも)実施国が自由に設定できますが、英語以外を設定することは実質的に難しいでしょうね…

EUデータベース

今回の目玉の一つに、被験者情報を除く治験データの公表が義務づけられるというものがあります。商売にかかわる重要機密等もあるので、一定の猶予期間が設定されています。EMAのTransparency Rulesと呼ばれるものですが、規則に先立って制定されています。でも、実際にパラパラめくってみると、臨床データに関して公表を遅らせることが認められているのは第Ⅰ相試験のみの模様ですね…

新しい同意説明文書テンプレート

CCMOは、以前より同意説明の目的が、免責に置き換わっていると危惧していました。ボリューム過多、内容も複雑、試験の内容の説明が二の次になっていることなどが問題となっていました。改善が必要だとCCMOは訴え、当初は試験の説明をA4用紙3枚までの文章量に収めるようガイダンスを出していましたが、試みを支持する製薬会社はあまり無かったように思います。今回も強制性は無いですが、今回のテンプレートを用いてWebベースの同意説明文書作成ツールを提供するみたいです。医師主導臨床試験では一定の需要があるかも知れません。こちらから英語版もダウンロードできます(「Engels」と書かれている、上から二つ目のリンク)。

ネタは多い

報告書としては文章量も情報量も少し残念ではありますが、色々自分で調べる気分にはさせてくれます。CCMOのVoluntary Harmonisation Procedure(VHP;実際の試験審査に先立ち、試験実施計画書を各国に同時に評価してもらう試み)への参加についても紹介されています。そもそもCCMOが審査するのは一部の特殊な試験(遺伝子治療)のみですので、VHPへの参加ということはこういった分野においての国際共同試験ということになります。報告書では、全身性エリテマトーデス患者対象のワクチン試験において、フォローアップ期間の短さに難色を示した事例が紹介されています。そのほか、未成年における治療を目的としない研究についての基本的なスタンスや、同意能力のない成人の試験を可能にするための試み等が(さらっと)紹介されています。機会があれば、CCMOに詳細な話を聞いてみたいと思います。

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